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「お前さん、いずれこれにはわけのあることですよ。あの青山さんのことですもの、何か考えがあってしたことですよ。」 お隅はそれを多吉に言って見せて、慣れない夫をそういう場所へ出してやるのを案じられると言う。背も高く体格も立派な多吉は首を振って、自身出頭すると言う。幸い半蔵の懇意にする医者、金丸恭順がちょうどそこへ訪ねて来た。この同門の医者も半蔵が身の上を案じながらやって来たところであったので、早速(さっそく)多吉と同行することになった。 「待ってくださいよ。」 と言いながら、お隅は半蔵が着がえのためと、自分の亭主の着物をそこへ取り出した。町人多吉の好んで着る唐桟(とうざん)の羽織は箪笥(たんす)の中にしまってあっても、そんなものは半蔵には向きそうもなかった。 そこでお隅は無地の羽織を選び、藍微塵(あいみじん)の綿入れ、襦袢(じゅばん)、それに晒(さらし)の肌着(はだぎ)までもそろえて手ばしこく風呂敷(ふろしき)に包んだ。彼女は新しい紺足袋(こんたび)をも添えてやることを忘れていなかった。 「いずれ先方には待合所がありましょうからね、そっくりこれを着かえさせてくださいよ。青山さんの身につけたものは残らずこの風呂敷包みにして帰って来てくださいよ。」 そういうお隅に送られて、多吉は恭順と一緒に左衛門町の門(かど)を出た。お隅はまた、パッチ尻端折(しりはしょ)りの亭主の後ろ姿を見送りながら、飛騨行きの話の矢先にこんな事件の突発した半蔵が無事の帰宅を見るまでは安心しなかった。
